社長や上司がカラオケを歌い、女子社員が盛り上げる。
もう完全に接待だと、みなが分かっている。
いつか上司が言っていた。
『うちの派遣社員は、全員イイとこのお嬢さんだよ』
恐らく厳格な父親に育てられたのだろう。
ワガママなオヤジの扱い方が上手だ。
お店の女の子には用がない。
0時をまわる頃には、社長も上司もかなり酔っ払っていた。
私はママに言って、タクシーを4台呼んでもらった。
上司をそれぞれ乗せて、運転手に行き先を伝える。
最後の1台には、女子社員と私が乗る。
1人1人降ろして、最後に私が帰る乗り合い状態だ。
無事に上司を乗せ終わり、私達はタクシーに乗った。
私はもちろん助手席。
まずは広尾、そして初台、高円寺、十条。最後に私の家。
タクシーに乗った直後、私は初めて女子社員の本音を聞く事となる。
今日の飲み会の愚痴を、後ろで話し出したのだ。
社長に耳元で喋られてキモかった…
偶然を装って、上司にモモを触られた…
あのハゲが腰に手をまわした…
今までの笑顔だった女子社員の本音。
私は何も言わずに聞いていた。
『でも中島さんは偉いですよね~。みんな嫌がってて来なかったのに』
若い派遣社員が言った。
『これも仕事だからね。飯塚さんに来いって言われたら仕方がないし』
後ろで愚痴を言う社員の声を聞きながら、私は外の光景を見ていた。
0時を過ぎると、この不景気にも関わらず、タクシーの数が増す。
天井についているランプが消えているから、ほとんどがお客を乗せているのだろう。
俺みたいな平社員は、上司の接待以外でタクシーに乗るなんてありえない。
まぁーこんなもんだろ。
領収書をもらって乗る時はあるが、そんなに多くは領収書として落とせない。
タクシーに乗って自腹で1万使うなら、カミさんに何か買ってやる。
そうしたらしばらくの間はご機嫌なんだ。
いつも小言を言われている。
ケーキの一つでも買ってきてくれたら、少しは機嫌が良くなるのに…と。
広尾、初台そして高円寺。
最終的に残ったのは恭子だった。
知らなかったのだが、恭子の家は十条らしい。
そこに一軒家を購入して、3年前から住んでいるようだ。
旦那さんの収入が良いのだろう。
後ろに1人しかいないのに私が助手席にいるのも変だった。
私はコンビニでコーヒーとお茶を買い、後ろの席に移動した。
恭子にお茶を渡す。
さっき分かった事なのだが、実は恭子はけっこう酔っている。
少しでも酔い覚ましにと、お茶を買ってあげたのだ。
十条までは環7で30分ぐらい。
タクシーの中で吐かれても困る。
そう思っただけなのだが、恭子は勘違いしていた。
『中島さんて優しいんですねぇ~』
ニッコリと笑いながら頭を下げる恭子。
ちょっと呂律がまわっていない。実は思っている以上に酔っているのか。
いつもの綺麗な女性というより、可愛い女の子になっている。
しかも頭を下げた時に、またしても恭子の巨乳が目に入ってしまった。
東武東上線を越えた頃、突然渋滞していた。
道路工事の為に、片側一車線の規制中らしい。
運転手は他の道に行くか聞いてきたが、もう急いでも変わらない時間だ。
このまま行ってくれと伝えた。
『都内に一戸建てなんて凄い旦那さんですね』
恭子は口を尖らせながら言った。
『全然!彼のご両親が持ってた土地に建てただけですもん』
『そっかぁ~でも羨ましいよね。俺なんて狭いマンション暮らしだよ』
『うちはまだ子供がいないから、広すぎるって感じです。
中島さんはお子さんいるんでしたっけ?』
『まだまだ。いまできたら生活できないよ』
正直な気持ちだった。
本当はカミさんが欲しがっているのだが。
『こんな時間になって、旦那さん大丈夫?』
『大丈夫ですよ、彼いま出張中でいませんから』
『そっか。じゃ~広い家で寂しい夜なんだね』
笑いながら言った。別に他意はない。
その後はお互いに黙ったまま、渋滞の車の中にいた。
ようやく規制中の道路を通過して十条に近づく。
ふと横を見ると、恭子は寝ていた。
『そろそろ十条だよ。どこらへんで降ろせばイイ?』
十条の駅へと向かう道で私は恭子に言った。
『途中にサンクスがあるので、そこで結構です』
呂律がまわっていない。大丈夫なのか。
するとスグにそのサンクスが見えてきた。
運転手に言って、そのサンクスの前で停めた。
『藤村さん、着いたよ。サンクスの前に着いたよ』
虚ろな目でキョロキョロし、目的地だと認識したようだ。
外に出て恭子を促した。
恭子は『よいしょ…よいしょ…』と可愛く呟きながらタクシーから降りた。
目の前に立った瞬間、恭子はよろめいた。
『大丈夫??』
私は恭子の腕を掴んだ。
『はぁ~い、大丈夫ですよ~』
全然大丈夫じゃないじゃんか。
立ってるのもままならない。
仕方がない。家まで送っていくか。
私は恭子を一度タクシーの座席に座らせ、料金を支払った。
もちろん領収書も。
ここから帰るタクシー代も会社が出してくれるかな…
そんな心配が頭を過ったが、恭子をそのままにしておくことはできない。
会社で何を言われるか分かったもんじゃない。

コメント